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  有機農業の特色(4) カリスマ有機栽培農家の一事例

 有機農業とはどのようなものかを知ろうとする時に、実際の有機農家の例をみるとたいへん参考となる。

 筆者は、NHKのテレビ番組(平成22年1月6日22時〜放映、プロフェッショナル・仕事の流儀、「自然と生きる有機農家」)で、埼玉県小川町で有機農業を営む金子美登さんの40年にわたる苦闘を見た。現在ではカリスマ有機農家と言われるまでになっていて、有機栽培のためのノーハウの一端も披露してくれた。

 その特徴的なところは下記のような点であった。

@有機栽培を始めてから間もなくは殆ど失敗し、6年間ピンチが続き、10年目頃からようやく納得できる生産ができるようになった。(解説:慣行農業をしている畑を有機圃場に転換しても、技術的な不足に加えて、天敵類が圃場に十分に定着していないことなどから、はじめは生産が不安定である)

A有機農産物の販売先として約30軒と契約していて、消費者から安全・安心だけでなく、野菜の美味しさが断然違うと高く評価されている。(解説:有機農産物として愛用してもらうには、安全・安心だけでなく、適切な堆肥施用や栽培法により美味しいと評価される野菜を作ることも重要だ)

B有機農産物を年間に60種類栽培し、(しゅん)の野菜をセットにして契約する消費者に届けている。冬季には葉菜を栽培しているが、寒さが糖分を蓄えさせ甘い野菜となるので、消費者に好評だ。(解説:東北地方で冬季にホウレンソウを栽培し、「寒締めホウレン草」としてブランド化している所がある)

C水稲栽培では、アイガモ農法を行っている。2009年の梅雨は、晴れ間の無い期間が長く続く異常気象であったが、雑草に肥料分を吸わせて稲葉の窒素含量を減らしイモチ病の蔓延を防ぐなど、無農薬栽培での苦労と、ノーハウの蓄積に感心した。(解説:東海地域の無農薬水稲栽培では、天候不順の時のイモチ病蔓延が最大の脅威だ)

D生産した大豆は、地元の醤油屋や豆腐屋に買ってもらっている。(解説:有機栽培大豆は、保存と輸送性が良いことから、全国販売も可能である)

E堆肥は主に落葉を材料にして、1年かけて完熟させたものを使っている。牛と鶏200羽を飼育して、排泄物をメタン発酵させてガスを燃料として利用し、メタン発酵の残液(消化液)を液肥として利用している。(解説:落葉を主体とする堆肥は、家畜堆肥よりも重金属の蓄積、O-157などの病原微生物汚染の心配がないことからも優れている)

F野菜栽培では、ニラとトマトを組み合わせてトマトの病気を防ぐ。パセリとナスを組み合わせるとナスの病気を防ぐとともにパセリに日陰を提供するなど、コンパニオンプラントとしての良好な組み合わせを経験的に知り、使っている。(解説:作物の組み合わせによる病害虫防除の効果とその理由については、科学的検討を加えていく必要があるだろう)

G野菜の株元には、ワラを敷いてテントウムシなどの天敵の居場所にして、アブラムシの防除に役立てている。キュウリを加害するウリハムシには天敵がいないので、早朝、ウリハムシ成虫の動きが鈍い時に手で取ってつぶしている。(解説:アブラムシ類の天敵ナナホシテントウは、植物体上よりも落ち葉や石の下面などに産卵する場合が多く、敷きワラへの産卵も多いと考えられる。また、敷きワラは、地上徘徊性天敵、例えば、ガ類の幼虫等の天敵であるオサムシ類、ゴミムシ類などの隠れ場所にもなる)

 以上のように、この番組を見て、一人の有機栽培農家の40年間の苦労話と経験の一端を知ることができ、有機農業の成功のイメージがわいてきた。                                          
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